研修をした。受講者の反応は良かった。問題はその後で、研修の翌週から何をすればいいかが決まっていない。管理画面を開けば利用率は見えますが、数字を上げるために誰が何をするかは、管理画面には書いてありません。
2026年10月8日にキーマンズネットが、Microsoft 365 Copilotを全庁展開した東京都千代田区の取り組みを、利用率97%、月約2,000時間の業務時間削減という数字と一緒に紹介しました。この記事は、その数字がどの段階のものかを分けたうえで、千代田区が基礎の説明会の後に何を続けたかを時系列で追います。読者は、社内のAI研修を終えたばかりの担当者と、研修の費用を出した経営者です。
結論を先に書きます。
- 97%は、全庁展開の後ではなく、実証実験の段階の数字です。 2024年8月から約150人で始めた実証実験の利用率としてキーマンズネットが報じた数字で、全庁展開は2025年10月、月約2,000時間は2026年3月時点の数字です。数字は段階ごとに分けて読みます
- 千代田区は、基礎の説明会を2回開いた後も、相談会、プロンプトの募集、事例集、隔月の勉強会を続けました。 教える場を1回で終えず、職員が聞きに来て自分の例を置いていく場を、頻度を変えながら切らしていません
- 会社でも、5つの打ち手は自社の社員で回せます。 相談会を開く人、事例を集める場所、次に広げる対象を決める人を社内で決めれば、研修の後に社内で回す形ができます。追加の研修は、相談会で解決できない課題が出たときに、その課題に合わせて検討します
97%の中身を分けて読む
Microsoftが2025年8月に公開した千代田区の導入事例と、キーマンズネットが2026年7月に掲載した取材記事を読むと、数字は3つの段階に分かれます(確認日2026年10月13日)。
- 実証実験(2024年8月から11月)。約150人が参加。業務時間の削減は月平均約300時間で、1人あたり約2時間。Microsoftの事例では、アクティブユーザー率は2024年11月で92%、2025年3月で95%。今後も使い続けたいと答えた割合は97%から99%
- 拡大(2025年度)。ライセンスを300に増やして検証を続行
- 全庁展開(2025年10月)。約900ライセンスで、ほぼ全ての事務職員が使える状態に。2026年3月時点で月約2,000時間の削減
97%という数字は、キーマンズネットの記事が実証実験のアクティブユーザー率として挙げているものです。Microsoftの事例に出てくる時点別の数字は92%と95%で、両方の集計条件が同じかどうかは今回読んだ資料では確認できませんでした。全庁展開後の900ライセンスでの利用率も、確認できていません。
分けて読む理由は、会社で同じことを目指すときの目標の置き方が変わるからです。実証実験に参加した約150人の利用率と、全員に配った後の利用率は、別の数字です。研修の後に最初に目指すのは前者で、後者は段階を踏んだ先にあります。
千代田区が研修の後にしたこと
Microsoftの事例とキーマンズネットの記事から、千代田区の取り組みを時系列に並べます。

基礎の説明会は2回。2024年8月の実証実験の開始時に、基礎を学ぶ説明会を2回開いています。会社でいう研修にあたるのはここです。
なんでも相談会を、頻度を変えながら続ける。2024年8月から10月は毎週、11月は隔週、その後は月1回と、疑問の解決と活用例の共有をする場を続けています。組織横断のプロジェクトチームが、Teamsで情報を共有しながら進めました。
いいね選手権でプロンプトを集める。2024年10月に、職員からプロンプトを募集して優れたものを表彰する企画を開き、約20件が集まりました。
事例集をSharePointに作る。2025年2月に事例集の構築を進め、約1か月で公開しました。公開から1か月余りで約40件が集まっています。
ライセンスを段階的に増やす。150、300、900の順です。
Copilot Labを2か月に1回。2025年から隔月で、活用層の底上げと最新機能の共有をする場を開いています。参加が10人程度にとどまる回もありましたが、2026年の初回には約100人が自分の意思で参加しました。担当者は、機能の進化で期待が高まったことを背景に挙げています。
今後の計画として、Agent BuilderやCopilot Studioで、部署ごとの業務マニュアルや法令データを読み込ませた専用のエージェントを展開することが挙げられています。
並べて分かるのは、基礎の説明会を2回開いた後も、聞ける場と見える場を切らさなかったことです。相談会は頻度を変えながら継続、事例集は誰でも見られる場所、勉強会は隔月。どれも、推進チームが職員に使い方を教え続ける形というより、職員が自分で聞きに来て、自分の例を置いていける形になっています。
取手市は、使わない人を追わなかった
キーマンズネットの同じブックレットは、茨城県取手市の進め方も取り上げています。2026年8月の取材記事を読むと、取手市の方針は千代田区と違う角度から定着に向かっています。
取手市が2024年8月に全職員向けに導入した議会答弁書作成支援システムは、Microsoft 365 Copilotではなく、Microsoft Azure OpenAI Serviceを基盤にしたものです。導入前日の操作説明会には103人が参加しました。2024年9月の定例会では130件の答弁書のうち38件でシステムが使われ、利用者のアンケートでは約半数が業務時間を5割程度減らせたと答えています。
総務部次長兼情報管理課長の岩﨑弘宜氏の方針は、全職員に一律の利用を求めないことです。使うかどうか、どこまで使うかは職員に任せる。理由として挙げられているのは、使わない部署を個別に説得し続けると推進担当者の負担が増え、意欲のある人への支援や活用事例づくりが後回しになることです。使いたいと思う状況を作れば職員は動く、という考え方です。
岩﨑氏が取り残し作戦と呼ぶ進め方は、2026年2月に本格稼働したオンライン行政サービスの話です。当初の一律導入の計画をやめ、希望する部署から先に進めたところ、先行した部署の手続きを見た市民から他の手続きにも同じ対応を求める声が上がり、参加していなかった部署から申し出が相次いだと紹介されています。
生成AIの導入でも、取手市は庁内説明会と個別説明会を開き、使い方に悩む職員を支えています。2023年の最初の導入時には、希望者向けの全庁研修の後に部署ごとの個別研修を約300名に行い、講師は外部ではなく市の職員が務めました。
2つの自治体には、職員が相談できる機会が続いていることが共通しています。取手市はそれに加えて、利用のペースを職員に任せる方針を示しています。支える場があり、使うかどうかを本人に任せる。当社は、この2つが揃っていることが、使う人が一部に固定されずに広がった理由の1つだと見ています。
会社に置き換えると、5つの打ち手になる
2つの自治体がしたことを、会社の規模に置き換えます。インハウス経営(AIを活用し、自社で業務を改善し、自社で仕組みをつくる経営)を目指す会社にとって、ここで大事なのは、どの打ち手も自社の社員で回せることです。
| 打ち手 | 自治体がしたこと | 会社で誰がやるか | 自社に残るもの |
|---|---|---|---|
| 聞ける場を続ける | なんでも相談会を毎週から月1回へ頻度を変えながら継続 | 研修を受けた社員のうち1人。30分でよい | 社内で聞ける人が決まる |
| 使った例を1か所に残す | SharePointの事例集に約40件 | 相談で出た例をそのまま置く | 自社の業務で使った例の一覧 |
| 良い使い方を選んで見せる | いいね選手権でプロンプトを募集し表彰 | 月に1回、事例集の中から皆で選ぶ。これは当社の会社向けの提案 | 自社の標準のプロンプト |
| 人数を段階的に増やす | 150→300→900ライセンス | 経営者が、次に配る部署と時期を決める | 広げる順番と判断の理由 |
| 使わない人を追わない | 取手市は利用を職員に任せた | 経営者が方針として示し、推進する人も同じ説明ができるようにする | 推進する人の時間 |
打ち手の1つ目と2つ目は、つなげて運用します。相談会で出た質問と答えを、そのまま事例集に置けば、相談会を開くたびに事例が増えます。担当を分ける場合は、相談の内容を事例集の担当に渡す方法を決めておきます。
4つ目と5つ目は、経営者が決めることです。次にどの部署へ広げるかは、相談会に来た人の部署と、その部署で使いたい業務が具体的に出ているかを見て決めます。取手市がオンライン行政サービスで希望する部署を優先したのと同じように、希望と用途が揃っている部署から先に進めます。使わない人を責めないという方針も、経営者が示したうえで、推進する人からも同じ説明ができる状態にしておきます。
Copilotが組織のプロンプトを提案する機能を使えば、3つ目で選んだプロンプトを組織の画面に置けます。事例集をどこに置くかに迷うなら、ここから始める手もあります。
研修の後に回す4つの場
5つの打ち手を、時間の流れで見ると、4つの場が順に回る形になります。

聞ける場。研修で習ったことを自分の仕事で試して、詰まったら聞ける場。千代田区の相談会です。
残す場。聞かれたことと、うまくいった例を置く場。千代田区の事例集です。
見せる場。残した例の中から、良いものを選んで見せる場。千代田区のいいね選手権と、Copilot Labです。
広げる場。見せた例を見て、使ってみたいと言い出した人や部署に、次に配る。取手市が希望する部署から進めたのと同じ考え方です。
広げた先の人は、また聞ける場に来ます。研修を1回したら終わりではなく、この4つが回り続けることで、社内で使える人が増えていきます。追加の研修が要るかどうかは、聞ける場で解決できない課題が出てきたときに、その課題に合わせて判断します。
注意点
自治体の数字を、そのまま自社の目標にしないでください。 千代田区の約150人は、実証実験に参加した職員です。全員に配った後の数字ではありません。会社で研修を受けた15人の利用率と、全社員に配った後の利用率は、別々に見ます。利用率の見方はAI研修の効果測定。Copilotの利用状況で定着を見るに書きました。
使わない人を追わない、は何もしないことではありません。 取手市は、使わない人を説得する代わりに、使いたい人への支援と事例づくりに推進担当者の時間を使っています。追わない分の時間を何に使うかまで決めて、初めて方針になります。
相談会は、推進する人が答えを全部持っている必要はありません。 千代田区の相談会は、疑問の解決と一緒に活用例の共有をしています。参加者同士で答えが出ることを前提にすれば、開く人の負担は小さくなります。
数か月たって使う人が固定したら、別の手が要ります。 相談会に同じ顔ぶれしか来なくなったときの進め方は、AI導入から3〜6か月で止まる会社に、最初にすることに書きました。
KOIYALの見解
当社は法人向けのAI研修を売る側ですが、研修の後に社内で回す4つの場を、研修の設計に最初から組み込んでいます。研修の最後に受講者が自分の業務への適用を宣言し、2週間後に研修担当と経営側と一緒に利用状況を見るのは、聞ける場と見せる場を社内で続けられる状態を、研修の中で作っておくためです。
千代田区の取り組みで当社が注目するのは、月約2,000時間という数字よりも、基礎の説明会の後に続いた場の種類と頻度です。研修の回数に加えて、社内に相談できる相手と、自社の業務で使った例の一覧が残っているか。当社はそこを確かめたいと考えています。インハウス経営の土台になるのは、受講の記録ではなく、その2つです。
当社の研修は、受講した社員が社内で相談会を開ける状態で終えることを目指しています。
次の行動
- 研修を受けた社員の中から、相談会を開く人を1人決める。週に30分、曜日と時刻を固定する
- 相談会で出た質問と答えを置く場所を1か所決める。SharePointでもGoogleドライブでも、全員が見られる場所ならよい
- 経営者が、使わない人を責めないことと、次に広げる部署を決める責任は自分にあることを、社内に言う
この3つが決まっていれば、研修の後に社内で回す形ができます。研修の設計からご一緒する場合は、AI研修サービスのご紹介をご覧ください。研修の後の4つの場を、受講する会社の人数と部署に合わせて組みます。
参考
- M365 Copilot全庁展開で月2000時間削減 現場がAIを「使いたくなる」習慣化の仕組み(キーマンズネット・2026年10月8日。確認日2026年10月13日)
- 千代田区、Copilot全庁導入で月2000時間削減 10カ月でAIを根付かせた定着の仕掛け(キーマンズネット・2026年7月29日。確認日2026年10月13日)
- 千代田区が職員の「考える時間」を生み出すために Microsoft 365 Copilot を採用(Microsoft 導入事例・2025年8月18日。確認日2026年10月13日)
- 取手市、生成AIを「使わなくてもいいよ」でまさかの定着成功(キーマンズネット・2026年8月28日。確認日2026年10月13日)
- 生成AIを用いた議会答弁書作成支援システムを活用(取手市・2024年8月。確認日2026年10月13日)
- 副パイロットとして生成AI活用し、利用した職員の半数が50%以上の作業時間効率化を実感 茨城県取手市(Taskhub・2024年2月27日。確認日2026年10月13日)
- AI研修の効果測定。Copilotの利用状況で定着を見る(KOIYAL・2026年9月25日)
- AI導入から3〜6か月で止まる会社に、最初にすること(KOIYAL・2026年10月22日)
- Copilotが組織のプロンプトを提案。研修のプロンプト集の保存先(KOIYAL・2026年10月7日)
- AI研修サービスのご紹介(KOIYAL)