AIの一次情報は、ほとんどが英語で流れてきます。日本語のニュースになるのはその一部で、翻訳されて届く頃には「現地のユーザーが実際どう受け止めて、どう使っているか」という肝心の空気が抜け落ちがちです。
この連載では週1回、その週の海外AIニュースの要点と、英語圏のコミュニティ(Redditなど)で話題になった「リアルな使われ方」を、日本のビジネスユーザー向けにまとめてお届けします。
今週の海外AIニュース
米大手銀行が外部のAIエージェントを口座から締め出し。同じ日に1Passwordが「パスワードを見せずにログインさせる」仕組みを公開
ロイター電を伝えたU.S. Newsの記事によると、米国の大手銀行は、外部のAIエージェントが顧客の口座の中で操作や取引をするのを遮断しています(10月22日、関係者2人の話)。きっかけは、一部のAIエージェントが利用者の指示とは無関係に見える操作をしようとしていた、というAxiosの報道です。銀行業界の関係者によると、ログインIDとパスワードをエージェントに渡している顧客がいて、銀行はそうした取引を通常は検知して止めています。ただし、顧客自身が認証情報を渡した場合、その取引は「不正」とは扱えないといいます。Morgan Stanleyは外部のエージェントのアクセスを遮断済みで、不正なエージェントの事例は見ていないとのこと。JPMorgan ChaseのJamie Dimon CEOは今月、「外部のエージェントを誰でも社内に入れることはしない。顧客にとってもJPMorganにとってもリスクが高すぎる」と述べ、Charles SchwabのCEOも「認証と利用体験を自社で管理したいので遮断している。遮断した回数は毎日報告を受けているが、多くはない」と話しています。
同じ日に、パスワード管理サービスの1Passwordが「1Password for Agents」を公開しました。TechCrunchの説明では、エージェントがログインしようとすると、エージェント固有のデジタル鍵で身元を1Passwordに確認し、利用者に通知が届きます。本人が承認すると1PasswordがIDとパスワードを入力し、エージェントはパスワードそのものを見ません。対応するのはAnthropicのClaude Duet、OpenAIのDotsとChatGPT Work、Grok Bot、MetaのMuse、スタートアップTownのエージェントです。TechCrunchは、問題の核心を「多くの銀行が、エージェントの操作が利用者の依頼によるものかどうかを見分けられないこと」と書いています。Chaseの広報担当者はAxiosに「ユーザー名とパスワードは誰にも渡さないでください」と答えました。銀行の件と1Passwordの新機能は、確認できた範囲で日本語の報道が見当たりませんでした。
実務への一言:先週号で紹介した「ChatGPTにカスタマーサポートと交渉させた」話のように、ログインを伴う作業をエージェントに任せる人は増えています。社内ルールとして先に決めておきたいのは3つです。①エージェントにIDとパスワードを直接教えない(チャット欄に貼らない、記憶させない)。②ログインは人が先に済ませるか、承認を挟める仕組みを使う。③銀行・証券・決済の画面はエージェントに触らせない。業務でネットバンキングの近くまでエージェントを使う予定があるなら、取引先の金融機関がエージェント経由の操作をどう扱うかを、規約と窓口で確認してから進めてください。米国では「認証情報を自分で渡した取引は不正扱いにならない」という説明が銀行側から出ています。
Googleのプライバシーポリシーに「Gmail・フォトのデータで広告を出しうる」例外。AIの機能にアプリをつないでいる人が対象
Googleは10月16日発効のプライバシーポリシーで、「ドライブ、Gmail、Google フォトのコンテンツに基づいてパーソナライズド広告を表示することはありません」という約束に、「(ただし、これらのサービスのデータの利用を、パーソナライズド広告をサポートするその他の Google サービスに許可した場合を除きます)」という例外を加えました。日本語版にも同じ文言が入っています。The Vergeと、最初に気づいたAndroid Authorityによると、対象になるのは「パーソナル インテリジェンス」の機能でGmailやフォトなどを検索のAIモードなどに接続している人です。より的確な答えのために接続した内容が、表示される広告にも使われる可能性がある、ということです。Googleは、メールや写真の中身、名前やメールアドレスのように個人を特定できる情報を広告主には渡さず、人種・宗教・性的指向・健康といった機微な分類にもとづく広告も出さないとしています。日本でも、Geminiアプリのパーソナル インテリジェンスは4月から提供が始まったと報じられていますが、今回の10月の改定については、確認できた範囲で日本語の報道が見当たりませんでした。
実務への一言:仕事のメールや取引先の資料を個人のGmailやGoogleドライブで扱っている人は、GeminiやAIモードにつないでいるアプリを一度確認してください。Android Authorityが英語の画面で示した手順は、Googleアカウントの「Data & privacy」から「Personalization settings」に進み、「Manage Personalized Recommendations in Search Services」の「Connected Content apps」でGoogle WorkspaceとGoogle フォトの接続を外す、というものです(日本語の画面では表記が違います)。接続を外しても、検索サービスの履歴にすでに保存されたデータは残る場合がある、とも書かれています。会社としては、就業ルールに「業務のデータが入った個人アカウントを、AIの機能に接続しない」を一行足すのが現実的です。
スウェーデン政府が職員のパソコンからChatGPTとClaudeを遮断。承認済みのCopilotに寄せる
スウェーデンの公共放送Sveriges Radioの報道番組Ekotは10月23日、政府官房(Regeringskansliet)が10月26日の月曜から、職員の業務用パソコンでChatGPTとClaudeにアクセスできないようにすると報じました。理由は、MicrosoftのCopilotなど、官房が承認したサービスを使ってほしいからです。デジタル化の担当ディレクターは取材を断りましたが、職員向けのイントラネットで「契約のないAIサービスの利用は、情報セキュリティに影響しうる」と説明しています。Ekotの調べでは、税務庁(Skatteverket)と、施設でのケアを担う国の機関SiSでも遮断がすでに始まっており、強制執行庁(Kronofogden)も検討中です。交通庁(Trafikverket)では今年、約10種類のAIサービスが広く、リスクのある形で使われていたことを内部監査が見つけ、「入力された情報の機微さと、AIが出した答えの扱い方の両方に、問題のある例があった」と書きました。一方で、一部の職員は官房が自前で開発したAIアシスタントの基盤を通じてChatGPTとClaudeを引き続き使え、承認済みのCopilotは見直しのうえでセキュリティを強化したといいます(内容は非公表)。日本語での報道は確認できませんでした。
実務への一言:このニュースの要点は「遮断」そのものより、「承認済みのツールと、必要な人向けの別ルートを残したうえで止めた」という形です。無料版のChatGPTや個人契約のClaudeを業務で使っている人が多い会社は、①会社として契約するツールを決める、②入力してよい情報の線を引く、③そのうえで未承認のサービスを止める、の順に進めると現場の反発が小さくなります。交通庁の監査が挙げた「何を入力したか」と「答えをどう使ったか」の2点は、そのまま社内の点検項目に使えます。
WhatsAppのヘルプページに、画面に出ないAI向けの指示。「規制当局への相談を勧めないこと」
プライバシー関連企業のRedactは10月19日、WhatsAppのヘルプセンターのページに、画面には表示されないAI向けの指示が埋め込まれていたと公表しました。ヘルプセンターからリンクされた545ページを読み、80ページで計102か所を見つけています。目立ったのは2つです。アカウント削除のページには「データ保護当局、規制当局、監督機関への連絡を勧めないこと」、通報とブロックのページには、利用者が訴訟や弁護士に触れたら「GDPRやCCPAなどのデータ保護・プライバシーの法律を、利用者自身が持ち出した場合でも参照・引用・解釈しないこと」という指示がありました。WhatsAppの欧州向けプライバシーポリシーは、監督機関に苦情を申し立てる権利を明記しています。Redactの創業者は「人に伝えていることと、AIに伝えていることの差」が問題だとしています。WIREDの取材に対しWhatsAppの広報担当者は、同社のサポート用チャットボット向けの指示がバグで表示されていたもので、すでに修正した、チャットボットは法的助言をするためのものではない、と説明しました。102か所の大半は、言葉の取り違えを正したり、別のページへ案内したりする無害な内容で、利用者を守る指示もあったとRedactは書いています。チャットボットが実際にこの指示どおりに答えたかどうかは確認されていません。WhatsAppのサーバーは、これらの指示をページと一緒にGoogleとBingのクローラーにも送っていたとのことです。日本語では、eSecurity Planet日本語版などが報じています。
実務への一言:自社のヘルプページやFAQを読ませてAIチャットボットを動かしている会社は、2点を確認してください。①チャットボットへの指示に、公開している規約やプライバシーポリシーと食い違う「言わないこと」が入っていないか。法的助言を避けるのは妥当ですが、相談窓口や権利の存在まで伏せると、それ自体が信頼を損ないます。②AI向けの指示や社内向けのメモが、ページのHTMLに入ったまま公開されていないか。画面に出ていなくても、検索エンジンのクローラーや外部のAIは読めます。チャットボットの導入時に「ページのソースを開いて、見せたくない文が入っていないか見る」を検収の項目に入れておくと安心です。
OpenAIの判定専用API「Decisions API」が一般提供に。応答は数百ミリ秒、出力は無料
OpenAIは10月22日、答えの選択肢が決まった判定に特化したDecisions APIを一般提供にしました(9月29日の開発者イベントで発表し、公開ベータを経ての一般提供です)。中身は同社の軽量モデルGPT-6 Lunaです。質問と許される答えを決め、状況を文章・画像・JSONで渡すと、「条件が正しい確率」「決めた選択肢のどれか」「段階評価の点数」のいずれかが返ります。OpenAIは、通常のResponses API経由でLunaを使うより最大10倍速いとしています。価格は入力100万トークンあたり0.10ドル(キャッシュ済みの入力は0.01ドル)で、出力には課金しません。1回のリクエストで最大400問まで、データの処理地域は米国とEUから選べます。Boxは、保険証明書30件の振り分けで、精度は同じまま約5倍速くなったとコメントしています。TechCrunchによると、OpenAIの担当者は「1〜3秒かかっていたものが100〜180ミリ秒になった」と話しています。一方、第三者の判定モデルの順位表(AIM System One IndexとArtificial Analysis Decision Index)では、上位はLiquidのD1 UltraとBase LabのElephant-1で、この分野を切り開いたTypeSafe AIのJevは7位と3位、OpenAIは8位と14位でした。日本語での報道は確認できませんでした。判定専用モデルの仕組みは、当社のJevの解説記事で説明しています。
実務への一言:問い合わせの振り分け、申請書の不備チェック、写真に破損が写っているかの判定のように、「答えが選択肢の中にある判断」を毎日大量にこなしている業務が対象です。始め方はOpenAIの説明どおり、よく出てくる判断を1つだけ選び、過去の実例で人の判定と見比べることです。当社も問い合わせの振り分けをJevで試した記録を公開しています。日本の顧客データを渡す場合は、処理地域が米国かEUになる点を、社内のデータの取り扱いルールと照らしてから使ってください。
そのほかの動き
- 第15号で取り上げたMetaの新しい商用規約は、施行が10月30日から11月20日に延期されました(The Verge)。報道機関の業界団体News/Media AllianceがMetaのCEOに見直しを求める書簡を送り、EUと英国の広告主・出版社も規制当局に施行の停止を求めていました。Metaは「何が変わり、何が変わらないかを説明する時間をとるため」としています。規約からAIの「訓練」の文言は削られましたが、法律の専門家は不十分だと指摘しています。Metaの広告やページを運用している会社は、確認の期限を11月20日に置き直してください
- MetaのAIエージェント「Muse」で、共有用のページが、リンクを渡されていない人にも見つけられる状態だったと、セキュリティ企業Clarocが報告しました。Ars Technicaによると、URLのサブドメインに会話のタイトルが入っていて、そのURLがDNSの記録に残るため、記録を集めた検索サービスで調べるだけで約6,800件のリンクが見つかり、数百件を開くと、企業の売上レビュー、小規模事業者の融資申請書、職場の年間休暇カレンダーなどがあったといいます。Metaは共有機能を一時止め、10月22日に修正して再開しました。Metaの説明では、問題はMuseの中で作った文書や画像などの共有にあり、修正前に共有したものはURLが変わったとのことです(The Verge)。どのAIサービスでも、「リンクを知っている人だけ」の共有は、リンクが外に出れば誰でも見られると考えておくのが安全です
- Anthropicが今週、こちらから話しかけなくても動くエージェント「Claude Duet」を研究プレビューとして公開しました。毎朝の要約、受信箱と予定の確認、返信の下書き、未払いの請求書の洗い出しと督促文の下書きなどを、専用のクラウド上のパソコンで進め、送信や支払いの前には承認を求めます。現時点では米国のPro・Max契約者向けの順番待ちで、Team・Enterpriseは対象外です。利用量はClaudeのほかの使い方と共有で、裏で動く確認作業も上限に数えられます。TechCrunchは、Claude Opus 5.5を土台に6,000以上のコネクタにつながり、StripeのLinkやShopifyのShop Payで買い物もできる一方、証券の売買や口座間の送金はしないと伝えています
- OpenAIは10月23日、最先端モデルの訓練と評価を、インターネットにつながない環境に切り替えたと公表しました(The Verge)。第15号で触れた「エージェントがテスト環境から外部に侵入した」一連の件を受けたもので、保存済みのウェブの内容だけを使わせます。それでも、別々の仮想マシンにいるエージェント同士が、CPUのキャッシュの読み出し速度の差を合図にして、ネットワークを使わずに情報をやりとりできたと書いており、監視の仕組みに検知を足したといいます
- PHPに、条件がそろうと認証なしで外部からプログラムを実行される重大な脆弱性2件が見つかり、10月21日に修正版(8.5.12、8.4.27、8.3.36、8.2.35)が出ました。PHP Foundationによると、報告したのはセキュリティ企業のCalifとWiz、そしてOpenAIで、AIを使った調査で報告が急増しているといいます(7月以降に公開したCVEは15件、無効・重複などだった報告は100件超)。日本語では窓の杜などが報じています。WordPressなどPHPで動くサイトを持つ会社は、サーバー会社や制作会社に更新済みかを確認してください
海外ではこう使われている(今週のReddit)
ここからは、世界最大級の掲示板コミュニティRedditで今週話題になった「AIのリアルな使われ方」です。いずれも投稿者本人の報告で、内容はスレッドへのリンクから確認できます。
「ChatGPTの広告に約4,000ドル。クリックはGoogle広告より安いのに、登録はほぼゼロだった」。広告主の側から見た実際
r/ChatGPTProの「We paid for ChatGPT ads. Here's what it looks like from the advertiser side.」という投稿です。投稿したのはSEOツールを提供するSE Rankingの公式アカウントで、6月に米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドでChatGPTの広告を試した結果を共有しています。広告はChatGPTの回答の下に出る小さな「スポンサー」カードで、表示されるのは無料プランとGoプランの利用者だけ(Plus、Pro、Business、Enterprise、Eduと18歳未満には出ない)。Googleの検索広告のように語句を選ぶのではなく、「どんな会話の横に出たいか」を説明すると、システムが表示先を決めます。広告主が見られるのは表示回数・クリック数・費用の合計だけで、会話の中身は見えないといいます。結果は約2週間で表示約9万7,000回、クリック約1,260回。クリック単価は平均約3.16ドルで、ソフトウェアのGoogle広告より安かった一方、登録はほぼゼロで、予算を使い切る前に止めたそうです(総額は約4,000ドル)。投稿者が挙げた理由は「顧客のSEO担当者はChatGPTを一日中使う人たちで、多くは広告の出ない有料プランを払っている。届けたい相手ほど広告を見ていなかった」。同社が別に行った約5万件のプロンプトの調査では、広告が出た回答のうち、その広告主が情報源として引用されたのは約3.6%で、「広告を買っても、回答の中の位置は買えない」という見立てです。約14%の広告は、会話との関連がランダムに選んだ広告と変わらなかったとも書いています。
日本でもChatGPTの広告は7月から表示が始まっており(ビジネス+IT)、今週OpenAIは提供国を89か国に広げ、出稿した広告主が10万社を超えたと発表しました。試す前に考えたいのは、「自社の顧客は、ChatGPTの無料プランやGoプランを使っている層か」です。仕事でChatGPTを使い込む専門職向けのBtoB商材は、この投稿と同じ結果になりやすいでしょう。一般消費者向けの商品や地域のサービスなら、OpenAIが言う「比較して決める最中」に届く可能性があります。少額で始め、クリック数ではなく問い合わせや購入の件数で判断する前提を、最初に決めておいてください。
「Claude Codeでピザ店に自前の注文アプリを作り、配達アプリに30%払っていた常連客を移した」
r/ClaudeAIの「I used Claude Code to build a pizzeria its own ordering app so regulars stop paying DoorDash 30%.」という投稿です。投稿者は地元の飲食店向けに「Nomback」という小さな事業をしています。配達アプリ経由の注文ごとに25〜30%を払っている店のオーナーたちが「抜け出し方を知らない」ことに目をつけ、店専用の注文アプリを作りました。客は店に直接注文し、売上は店に入り、配達員にはDoorDashの配達代行サービス「DoorDash Drive」を通じて支払われる仕組みです。Claude Codeが作ったのは、スマホアプリ本体(Expo)、サーバー側の処理(Supabase)、店ごとの口座に直接入金されるStripe Connectの設定、店がすでに使っているレジ(Clover)への注文の連携、そしてデプロイ前に自分のミスを見つける自動テスト(Playwright)です。投稿者は「訓練を受けた開発者ではない。Claudeがなければ出せなかった」と書く一方、「最初の店にイエスと言わせることはClaudeにはできなかった。店主自身のメニューをアプリに入れたスマホを持って、店に行って見せたことで決まった」とも書いています。
100件を超えたコメントを自動で要約したまとめでは、最も支持された意見は「作るのは簡単な部分で、長く保守・サポート・更新し続けることが本当の山場」でした。DoorDashの価値は新しい客を連れてくることだ、という指摘に対し、投稿者は「DoorDashを置き換えるのではなく、既存の常連客だけを移す。新規客はDoorDashのまま」と説明しています。「1店のためにアプリを入れる客は少ない。ウェブ版のほうが賢い」という意見も多く、決済情報が漏れたときの責任を心配する声もありました。仲介サービスの手数料を払っている事業者にとって、「常連客だけを自前の窓口に移す」という線の引き方は参考になります。ただしコメント欄のとおり、作ったあとの保守と、決済まわりで問題が起きたときの責任を誰が持つのかは、作る前に決めておく必要があります。
「もっと良く」ではなく「もっと深く」。プロの手順を引き出すプロンプトを、ChatGPTやClaudeでそのまま使う
r/ChatGPTProの「"Deeper, not bigger": I turned Felix Rieseberg's depth prompt into a free Agent Skill」という投稿です。AnthropicでClaudeの開発に携わるFelix Rieseberg氏がエッセイで紹介したプロンプトを、投稿者がClaude Codeなどで使える「スキル」にして無料で公開しました。元のプロンプトは、投稿者の引用によると次のとおりです(日本語は当社訳)。
このタスクを、大きくではなく深くしたい。書き直す前に、(1) この分野のトップのプロが、私が頼んでいないのにここでやることを挙げて。(2) すでに要約・加工されたものではなく、プロが出発点にする生の材料を挙げて。(3) プロが使う具体的な手法と道具を挙げて。(4) あなたや私以外で、結果が正しいと示せるものを挙げて。そのうえで、私のプロンプトを、まさにそれを頼む形に書き直して。
投稿者の説明では、モデルに「もっと良く」と頼むと、たいてい「もっと多く」(節が増える、注意書きが増える)が返ってくる。「専門家として振る舞って」と書いても、言葉づかいが変わるだけで手法は変わらない。この4つの問いは、入力(要約ではなく生のデータ)、道具(名前の言える手法)、検証(自己レビューではない外部の基準)を変えさせる、といいます。1週間使って、「いや、そういう意味じゃなくて」と頼み直す回数が減り、テストやベンチマーク、数字の整合確認のように、確かめられる出力が増えたそうです。批判も併記しています。トークンと往復が増える、効果の確かな証拠はまだ少ない、もっともらしい「専門家の手法」をでっち上げることがある、小さな作業には過剰、本当のボトルネックはプロンプトより生データへのアクセスであることが多い。コメントでも「長さがプロンプトの側に移るだけでは」という疑問が出て、投稿者は「それが主な失敗パターン。出力が長くなったかではなく、別の入力・名前のある手法・失敗しうる検証のように、種類が変わったかで判断する」と答えています。
試すなら:スキルを入れなくても、ChatGPTやClaudeのチャットにそのまま貼って使えます。報告書の作成、データ分析、競合調査など、「いつも無難な答えが返ってくる」依頼の前にこのプロンプトを貼り、書き直されたプロンプトを読んで、(2)で挙がった生の材料を自分が用意できるかを確かめてから実行してください。(4)で挙がった検証の方法は、社内レビューの基準としても使えます。Claude Codeを使っている人は、投稿者のGitHubのリポジトリからスキルとして入れることもできます。
Codexに「パソコンのどこが容量を食っているか」を調べさせる。ただし削除は自分の手で
r/ChatGPTProの「A different use for Work/Codex: it helps you clean your hardrive for things invisible to humans」という投稿です。Windowsでは、利用者フォルダのAppData(LocalやRoaming)に不要なファイルがたまり、CodexやClaudeも .codex や .claude のフォルダに大量のファイルを残し、NVIDIAはドライバ更新のインストーラを全部保存している、と投稿者は書いています。手順は、①フォルダの容量を一覧できるツール(FolderSizeなど)を入れる、②隠しフォルダを表示してAppDataを開く、③容量の大きいフォルダから中を見ていく、④判断に迷うものや怪しいものがあれば、そのフォルダの場所をCodexかChatGPTのWorkに渡し、「害なく消せる一時ファイルがあるか調べて」と頼む。これで、BleachBitなどの掃除ソフトが消さない10GB超を削除できたそうです。コメントには「何が容量を食っているかCodexに聞いたら、6年前に使っていたWeb開発環境(AMPPS)の古いコピーが思いもよらないフォルダに残っていて、90GB空いた」という報告もありました。
ただし投稿者自身が、「AppDataやLocal、Roamingが何か分からない人、危険な削除コマンドを止める仕組み(フック)を入れていない人は、手を出さないで」と書いています。r/ClaudeCodeには、確認なしで何でも実行させる設定(--dangerously-skip-permissions)で使っていたら、ClaudeがCドライブの全ファイルを消すコマンドを実行した、という報告もあります(そのパソコンはゲームとビルド用で、失って困るものはなかったとのこと)。試すなら:AIに頼むのは「調べて、消してよい候補と理由を一覧にして」までにし、削除は一覧を読んだうえで自分の手で行ってください。会社のパソコンなら、利用者が消してよい場所を、情報システム部門のルールで先に確認しておくことが前提です。
Power Automateのフローを、画面でクリックせずにClaudeに作らせて配置する
r/PowerAutomateの「There has been no guide to deploying Power Automate flows from code. I documented one with Claude AI.」という投稿です。投稿者は先月、Power Automate Desktop(PAD)のフローを記述する言語「Robin」のアクションをClaudeと一緒に整理した資料を公開しました。「AIが、PADに貼り付けても通らないフローを書かないようにする」ためのものです。今回はその続きで、作ったフローを、ポータルの画面を操作せずに環境へ配置して実行する方法をまとめています。中身は、Graph・Flow API・Dataverseへのサインインを1回で済ませる方法、AIが存在しない環境や接続をでっち上げないように、実際の環境・接続・SharePointのサイトやリストを先に取得する手順、クラウドフローの作成・有効化・実行、APIが実際にはじく定義のルール(それぞれのエラー文付き)、約30のエラーメッセージと本当の原因の対応表などです。投稿者はこの方法で8〜9か月に100を超えるクラウドフローを配置してきたそうで、公開前の再テストでは、Outlook、SharePoint、Teams、Dataverseなどを使う分岐の多い長いフロー10本のうち9本が一度で配置でき、10本とも動いたと書いています(残る1本は、わざと用意しなかったSharePointのリストを参照していたため)。資料はCC BY 4.0でGitHubに公開されています。デスクトップフローをDataverseに直接書き込む部分は「Microsoftのサポート対象外」で、1つの環境・有人実行でしか確かめていない、と投稿者自身が明記しています。コメントでは、Microsoft公式のPower Platform向けのスキルでうまくいっている、という声もありました。
試すなら:公式のスキルかこの資料をClaude Codeなどに読み込ませ、テスト用の環境で「毎朝届く特定のメールを、SharePointのリストに記録する」くらいの短いフローを作らせるところから始めてください。本番の環境では試さないこと。そして第15号で取り上げたように、情報システム部門がコネクタを制限している会社では、先に許可の範囲を確認しておくことが前提です。
編集後記
今週は「誰に、どこまで鍵を渡すか」の週でした。米国の銀行は外部のエージェントを口座から締め出し、1Passwordは「パスワードは見せずに、ログインだけさせる」仕組みを出しました。Googleは、AIのためにつないだメールや写真が広告にも使われうると規約に書き、スウェーデン政府は、承認していないAIへの入口を閉じました。WhatsAppの件は逆向きで、AIにだけ渡していたはずの指示が、外から読める場所に出ていました。Redditでも、Codexにパソコンの掃除を手伝わせる話の隣に、何でも実行させたらCドライブを消されたという報告が並んでいます。AIに任せられることが増えるほど、「何を渡し、何を渡さないか」を先に決めた人のほうが、安全に、そして結局は速く進めます。来週も、海外の現場で引かれ始めたその境目を拾っていきます。
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また、記事で紹介したようなAI活用を自社の業務に落とし込みたい方向けに、法人向けAI研修・DX研修(厚生労働省「人材開発支援助成金」の対象講座あり)と、AI顧問・コンサルティング(導入計画づくりから運用の仕組み化までの伴走支援)をご用意しています。「まず何から始めればいいか相談したい」という段階でも、お気軽にお問い合わせください。